カルチャー談話

日頃見聞きしたカルチャーについてのブログ

映画『グランド・ホテル』(1932) 鑑賞後の感想

第5回アカデミー賞作品賞の受賞作品であり,群像劇の古典として有名な

エドマンド・グールディング監督の『グランド・ホテル』を観ました。

主演は(と言っても群像劇なので主役らしい人は限定できませんが)金に困っておりホテル泥棒を企んでいる自称男爵のガイゲルン(ジョン・バリモア)と,落ち目に悩んでいるバレリーナのグルシンスカヤ(グレタ・ガルボ)でしょうか。

その他中心人物として,病気により余命宣告された工場経理係のクリンゲライン(ライオネル・バリモア),その工場の社長でこれも経営難に苦しむプライジング(ウォーレス・ビアリー),そしてこれも金に困っているプライジングの速記者として雇われているフレムヒェン(ジョーン・クロフォード),あと物語のストーリーテラー的立ち位置のホテルに滞在しているオッテルンシュラーク医師(ルイス・ストーン)が登場する。

 

 

簡単なあらすじとしては,ドイツの一流ホテル「グランド・ホテル」に滞在する人々の話。クリンゲラインは残りの余生を全財産はたいて一流ホテルで過ごそうとやってきたしがないおじさん。そんなクリンゲラインとひょんなことから友人となるホテル泥棒のガイゲルン。ガイゲルンはグルシンスカヤから金を取ろうと,周りの人間にも近づきつつ機械を伺っている。プライシングのところへ仕事にやってきていたフレムヒェンをクリンゲラインはナンパしていい関係となるものの,いざ盗みに入った部屋でグルシンスカヤに真に心を奪われてしまう。それぞれの登場人物の状況や心情がホテルの螺旋形状のように入り混じって物語は進んでいく。

 

 

ここからは個人的感想ですが,ネタバレになる可能性があるので注意。

 

 

元々ただの労働者だったクリンゲラインには当然一流ホテルは不相応であり,金をちらつかして威張る姿はみすぼらしい。そんな彼に,落とした帽子を拾い声をかけるのがガイゲルン男爵。出世もせずただひたすら働いてきたであろう,また1人身分が違い肩身の狭いを思いをしているクリンゲラインはそれに感激し,男爵に友人になってほしいと言うと彼はすでに友人だと言う。カイゲルン男爵は犬を飼っているが,自室で犬に対して,「私が愛するのはこの世でお前だけだ」というセリフがある。また友人だと言うセリフの後,私には友人がいないとも言っている。金が目当てのカイゲルン男爵にとってクリンゲラインは全財産を持っているにしてもそこまで魅力は無く,わざわざ近づく必要はあったのかと思う。彼は前述のセリフからも考えて,クリンゲラインと同じく孤独を感じている人間だったのではないかと思う。

カイゲルン男爵やオッテルンシュラーク医師と付き合っていくことで,クリンゲラインは様々な事を経験していく。初めてカクテルの名前を覚え(覚えたカクテルを馬鹿の一つ覚えで何度も言うところが微笑ましい),踊ったことのないダンスを美しい女性と人前で踊り,大勢で賭け事もする。そして彼には常に人が傍にいる。(彼が執拗に傍にいてほしいと願い,誰かの下へ寄っていくからだが。)品位ある人間たちの中で過ごし,色々な経験を積んだ彼は次第にみすぼらしさが無くなり,品位を持つようになっていく。カイゲルン男爵の死後フレムヒェンは真っ先にクリンゲラインの下へ向かうが,その時点はフレムヒェンはカイゲルン男爵と同等の愛をクリンゲラインに持っていたのではないかと思う。

ネットでの批評ではあまり語られていなかったが,オッテルンシュラーク医師は重要な登場人物だと思う。戦争の手りゅう弾により顔の右半分に傷跡を負っている彼だが,作中では左半分のみが映るカットが多い。印象深い顔の白と黒の対比は陰と陽の意味があるような気がする。物語では触れられていないが,彼はしきりに自分宛に伝言やメッセージはないか聞いている。彼もまた孤独を抱える人物ではないだろうか。様々な人が寝泊まりし,入っては出ていくのは眺めながら,クリンゲラインのような孤独を感じている人に寄り添い,(医師は男爵以上にクリンゲラインと行動を共にしているように見える)光を与えようとしているのではないだろうか。顔の左半分を頻繁に映すことで彼が物語の陽的存在であることを象徴づけていると思う。

他社のレビューにて,本作が製作された1932年のアメリカの時代背景を象徴しているという意見が的を得ていると思う。なぜならほとんどの登場人物が金に困っているからだ。そして本作は前述のように多くの人が孤独や寂しさを抱えている。当時のアメリカや世界の人々も不況による貧困に苦しみ,同じ気持ちを抱えていたのではないか。

プロローグの登場人物でも紹介されるがオッテルンシュラーク医師以上に登場シーンの少ないポーターのゼンフ(ジーン・ハーショルト)は妻の難産を心配しているが,最後の最後に無事子どもが生まれる電話が入る。彼のストーリーだけが他の登場人物のような紆余曲折のない純粋なハッピーエンドであり,視聴者にとっての一番の希望の光のような印象を受けた。

 

 

何人もの登場人物のストーリーが重なる本作はまさしく群像劇の金字塔であり,群像劇の好きな私も十分楽しめました。たまに長々しく感じる部分もあったが,全体としてはまとまっている作品だと思います。群像劇好きな方は是非ご覧ください。

 

 

グランド・ホテル [Blu-ray]

グランド・ホテル [Blu-ray]

  • 発売日: 2013/02/06
  • メディア: Blu-ray